今回は、ヨットの航海記で「史上初」「初の〜」という冠がつくものをご紹介します。
まず絶対に欠かせないのは、
『スプレー号世界周航記』ジョシュア・スローカム著
史上初の小型ヨットによる世界一周
知人にただでもらった37フィート(約12m弱)の漁船を自分で修理してヨットに改造し、三年がかりで世界一周。ヨットの可能性を証明した、ヨットの世界で燦然と輝く名著。
1ドルで買った時計をクロノメーター代わりに位置を測定し、マゼラン海峡では泥棒を撃退したり、ロビンソン・クルーソーのモデルになったセルカークがすごした孤島に寄港したり……
まあ、文章もめちゃくちゃうまくて、個人的な感想ですが、『白鯨』を書いたハーマン・メルヴィルのにも似てる——というくらい「読ませる文章」の書ける人です。
『太平洋ひとりぼっち』堀江謙一著
日本人による初の単独無寄港太平洋横断
高卒で家業を手伝いながらお金を貯めた二十歳そこそこの青年が全長がスプレー号の半分(約6m弱)しかない合板のヨットの図面を買って造船所に発注。メーカーから無償提供されたロゴ入りの帆をつけ、船もそのロゴにちなんで「マーメイド」と命名。
大阪人らしい実利を重視したケチケチ作戦で、誰もやったことのない大冒険へ。
ヨットでの合法的な出国方法すら見つからない時代に、海の向こうで英雄となって凱旋。日本のヨットの夜明けを切り開いたレジェンド。この本を面白いと思わない人はヨットに向いてないでしょう。
ちなみに、この人は世界を何周もするほど航海していますが、六十年後に八十歳をすぎて、またも太平洋をヨットで単独横断! すごすぎて言葉が出てきません。
『アジズ号とわたし』ニコレット・ミルンズ・ウォーカー著
女性による初の大西洋横断
著者は英国の工科大学で働く理系の研究員。書く文章も、普通の航海記(夢を追いかけて努力し、苦難の末に達成)というのとは一味違っています。
大西洋単独横断の記録は男性ばかり。女性が初めて成功したら有名になれるんじゃないの? という発想から、全長10・7mのヨットで二十八歳で実際にやってのけて、ねらい通りに有名になり、帰りはクイーン・エリザベス二世号に招待されて帰国。市長の出迎えを受け、ロールスロイスで自宅へ。その経緯を、客観的かつ淡々と書いた本。
好き嫌いについては意見の別れるところでしょうが、自分のやりたいことを冷静に分析して着実に実行し成功させるという発想と行動力は、アイドルやアーティスト、起業家にも必要なことですよね。
『ブルーウォーター・ストーリー たった一人、ヨットで南極に挑んだ日本人』 片岡佳哉著
ヨットで初めて南極大陸に上陸した日本人
この航海はもっと知られてもよいはずなのに、新聞や雑誌の見出しに踊るような(史上初、最年少、最速)というキャッチーな偉業がないのでマイナーなまま。
荒れる海というイメージのある南米・ホーン岬の海で、あえて氷山が浮かぶ南極に向かい、南極半島にヨットで寄港し上陸してしまう実行力は、それだけで単純にすごい。
堀江謙一さんの本がベストセラーになって以降、出版界はヨットのヨの字がつくというだけの理由で玉石混交の航海記を量産してきましたが、ブームも落ち着いてきて(売れなくなって)、航海記の出版点数は減少の一途。本の発行はタイミングが大事ということでもありますが、そういうマーケティングの観点は抜きにしても、読んでみる価値はあります。
『ヤワイヤ号の冒険』大浦範行他著
学生たちによる自作ヨットでの日本一周
日本が戦後の混乱を経て高度経済成長を始めたころの若者たちの熱気と意気込みがよく伝わってきます。
自作やDIYって、言葉にすれば簡単ですが、海に浮かべるヨットですからね、お粗末なできだったら自分の命にも関わるわけで、そのあたりのこだわりと現実(要するに、お金)との葛藤が航海よりもずっと興味深い?
航海記と絵本が出ていますが、どちらも絶版のようです。図書館や古書店で探すのも一興でしょう。
探すヒントとしては、航海記の方は石原慎太郎責任編集の「現代の冒険3 世界の海洋に挑む」(同じく絶版)に収録されています。こちらを探した方が見つかりやすいかもしれません。
読みたい本を探すという行為や過程を楽しめるようになれば「読書家として一人前」……
実生活では出会うはずがない人々との出会いや対話を——本を通して——実現し、楽しみましょう。


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