この寒い時期にカヌーの本なんてと、おっしゃる方もいらっしゃるでしょうが、水遊びに適した季節には実際に川や海に出て遊ぶのに忙して、なかなかカヌー関係の本を読んだりする時間がなかったりしますよね。
だから、シーズンオフというのは、自分の興味のある分野の本を読むには最適の季節なんです。
アイディアやすぐに使えるハウツーなんかは動画サイトにあふれてますし、便利でありがたいのですが、その性質上、どうしても断片的で、全体を把握するには向いてなかったりしますよね。
収益のためには再生数をかせがなきゃならないので、人目につきやすい目立つタイトルで、例外的なことを大々的に取り上げがちだったりします。
ま、それはそれでお好きにどうぞ、という感じなんですが、ときどき立ちどまって全体を眺めてみるというのも、自分の身を守ったり知識や理解を深めるのに役立つはずです。
前置きが長くなりましたが、ここで取り上げた本は、そういう面倒くさい話は抜きにして、どれも興味深くておもしろいですよ。
カヌーで川や海を旅する
『日本の川を旅する カヌー単独行』
野田知佑著
カヌーやカヤックに乗って川や海を旅する——これはもうアウトドアではごく当たり前の光景になっていますね。
これは、いまから40年ほど前のこの本からはじまったのです。
もちろん、カヌー自体はそれ以前からありましたし知られてもいたのですが、それはスキーの回転競技のように急流で指定されたマークで方向転換しながら漕ぎくだる、速さと正確さを競うスポーツとしてのカヌーでした。
ところが野田氏のスタイルは、ファルトやフォールディングなどと呼ばれる組み立て式のカヌーをかかえて現地の川へと足を運び、上流から下流へ向けて漕ぎ下りながら旅を楽しむ——食料やテントなどの生活物資を持って川を下りながら「なんでも見てやろう」式に旅をするというもので、これは当時としては斬新で、若者からそれほど若くない中高年!にいたるまでをとりこにしたのです。
野田知佑がいつも連れていた飼い犬のガクも、カヌー犬として写真集が出るほどの人気ぶりでした。
この本は、北海道から九州まで、14の川をカヌーでツーリングした記念碑的な航海記です。賞が本の価値を示すものとは限りませんが、日本ノンフィクション賞新人賞の受賞作です。
※カヌーとカヤックの違いは、ごく単純にいうと、上面にデッキ(甲板)があるか否か。ないものをカヌー(カナディアンカヌーなど)、上面がデッキでおおわれ、人間の体が出るところだけ穴が開いているものをカヤック(イヌイットの動物の皮を使ったものなど)と呼び、一般には両者を総称してカヌーと呼ばれることが多い。
ちなみに、カナディアンカヌーは片側だけにブレードがついたシングルパドルで漕ぎ、カヤックでは両側にブレードのついたダブルパドルを使うことが多いのですが、パドルについては、カヌーでダブルブレードを使ってもかまいませんし、その逆でも特に制限はありません。
というか、「人に迷惑をかけず身の安全を守る」ためのルールを厳守するのは言うまでもありませんが、そうでないところは自分の判断で好きにすれば、というのが野田知佑のやり方で、その自由さが広く受け入れられた理由かもしれません。
『川へふたたび』
野田知佑著
前述の本の後日譚にあたるもので、そのなかでも最も印象的で、日本の川を代表する釧路川、長良川、四万十川を再度、三度、四度とおとずれた紀行文です。
「野田知佑カヌーエッセイベスト」と銘打たれているように、それぞれの文章はより洗練され、極上のアウトドア・エッセイとなっています。
ただ、日本の川は時代とともに(悪い方に)変化していて、文庫版の後書きで「これほど早く、日本の川がダメになるとは夢にも思わなかった」という、失われゆく自然に対する挽歌とみることもできます。
『ヨーロッパをカヌーで旅する』
ジョン・マクレガー著
日本の川旅が野田知佑から始まったとすれば、世界の川旅は、ロブロイことジョン・マクレガーから始まったと言えます。
ジョン・マクレガーがいなかったらヨーロッパでカヌーがいまほど普及することはなかったでしょうし、そうなると野田知佑がヨーロッパでカヌーと出会うこともなく、日本にカヌー旅を伝える人もいなかったか、まったく別の形になっていただろう——というほどの存在です。
※ロブロイ (Rob Roy) はジョン・マクレガーが考案した木製のセーリングカヌー(カヤック)のことで、彼自身もロブロイと呼ばれたりします。出身地のスコットランドの英雄(というか義賊?)のロブロイことロバート・ロイ・マクレガーにちなんで命名したとされています。
原題は “A Thousand Miles in the Rob Roy Canoe on Rivers and Lakes of Europe”
『欧州カヌー紀行』
R・L・スティーヴンソン著
スティーヴンソンといえば『宝島』や『ジキルとハイド』で知られるイギリスの作家ですね。若い頃はアウトドア大好きで、ジョン・マクレガーにあこがれて自分もカヌーを作ってテムズ河に浮かべたりしていました。
やがて、国内の川では物足りなくなり、ヨーロッパ大陸まで足を伸ばしたときの紀行文がこれ。
世界的ベストセラー作家となる前の、二十代での自分探しの放浪の旅とでもいうべき航海記です。
『東海道中カヌー膝栗毛 ―鎌倉~京都間一〇六五キロ 中年カヌーイスト単独航海』
吉岡嶺二著
この本は、サラリーマンが休日を利用して長距離を旅した記録です。
この航海がユニークなのは、尺取り虫航法とでもいうべき、短い区間の航海をつないで長距離を旅するという点です。
一度に全航程を漕破するのではなく、週末とか休日ごとに短い距離を漕いで、到着した地点で中断して公共交通機関に乗って帰宅。ウィークデイは会社で仕事をし、次の休日に中断した場所に戻ってからまた再開するという、その繰り返し。
この方法で、本州はいうまでもなく九州や北海道もぐるっとまわって旅しています。何冊も続編が出ています。
長い休みがとれないサラリーマンでも、この方法だと、無理なく長い距離の旅ができますよね。
※残念なのはとっくに絶版になっていること。電子書籍かオンデマンド出版で復刊してほしい本です。とはいえ、古本であればかなり流通しているので入手するのはそうむずかしくありません。
どうです、カヌーやカヤックで川や海を旅してみたくなりませんか?
実用的なテクニックとノウハウ
冒険は魅力的——とはいえ、立てば足がつくような浅い川や浜辺であっても、ちゃんとした技術を身につけておくことが自分の身を守る第一歩ですよね。
そこで、入門書としておすすめなのが、
『カヌー&カヤック入門』
辰野勇著
日本カヌー連盟公認テキスト/
JRCA日本リクリエーショナルカヌー協会公認テキスト
著者はモンベルの創業者で、登山家・カヌーイスト。野田知佑とも交流のあった人。
十数年前に出た本ですが、古さは感じさせません。
というか、その時代にはカヌーの漕法もアウトドアでの利用に関するノウハウや技法もほぼ完成の域に達していたので、古くなりようがない——というレベルの本。
とりあえず、こういうので基本・基礎知識を頭に入れておいて、あとは実地で少しずつなれていくだけ。
今はカヌーよりもSUP(スタンド・アップ・パドルボード)の方がポピュラーでしょうか。
サーフボードのような大きな板の上に立って漕ぎながら進むあれです。
旅というよりは海や湖の散歩という感じですが、インフレータブルのボードもありますし、アウトドアで手軽に遊ぶにはいいですよね。
『漕遊大全 The Complete Sup Paddler ’22 SUPの楽しさ教えます! 』
タイトルを見ただけで、内容がわかってしまいますね。
SUP(サップ)は、実際にやったことがある人はよくご存知でしょうが、幅の広いものを選べば初心者でもすぐに立てますし、漕ぐのもそうむずかしくはありません。勘のいい人や運動神経のいい人なら、始めたその日に海上散歩を楽しめます。
ただ海だと波やうねりがあるし、風の弱い日や風がさえぎられるようなエリアでないと、一人でやるにはなかなかリスクが高い、という側面はあります。
自然は肩書や地位に忖度なんかしてくれませんから、知ったかぶりしてつらい目にあうのは自分です。
とはいえ、立って漕ぐのがむずかしいときは、ボードに座ってカヌーみたいに漕ぐこともできるので、頭の中で「こういう状況になったらこう」「こういう場面ではこう」とシミュレーションをしておいて、早め早めに切り替えるのが事故にあわずに楽しむコツでしょうか。
シットオンカヌーなんかで釣りを楽しんでいる人も多いですよね。
投げ釣りなんかだと、堤防や砂浜より釣り人の方で海の上に出ていった方が圧倒的に有利だから当然かな。
『カヤックフィッシング教書』
KAZIムック カヌーワールド別冊
KAZIはヨットの雑誌ですが、カヌーワールドは数少なくなったカヌーの専門誌。今は年に二回刊行されています。こちらはその別冊で、いわゆるムック(雑誌風の本)。
釣り自体に関する本は山ほどあるので割愛しますが(別稿でとりあげる予定)、カヌーやカヤックで釣りをするには、それなりのノウハウが必要ですね。
動画サイトにもアイディアやヒントは山ほどあって参考になりますが、どの世界でも、基本をきちんと押さえておくことは、特にトラブルが生じたら生命に関わるようなアウトドアの世界では最優先にすべきことです。
カヌーにまつわる読み物
『宇宙船とカヌー』
ケネス・ブラウアー
父は宇宙船の建造に夢をかけた科学者。その父を拒否し、北の海でカヌーと生きることを選んだ息子。
息子は17才で家出して音信不通に。父とは違う生き方を求めてカナダの大自然へと入りこみ、カヌービルダーとして生きていくことになります。
その息子ジョージ・ダイソンが建造した巨大なカヌーは、はからずも、父が設計した巨大な宇宙船とそっくりだった——という父と子の葛藤とその後の顛末を描いた親子の物語。
『BAIDARKA』
ジョージ・B・ダイソン著
こちらは「宇宙船とカヌー」で重要な役割を果たしたカヌー・バイダルカを復元したジョージ・ダイソンの手記。カヌー好きには垂涎の本。
『日本の村・海を開いた人々』
宮本常一著
宮本常一は民俗学者としてあまりにも有名ですが、実際に自分の足で歩いて自分の目で見て考えたことを本にまとめているので、いわゆる、えらい学者先生が壇上から教えさとすように書く文章とは一味も二味も違います。
海辺の集落をただ車で通りすぎるのと、船や海の上から眺めたときとでは、印象が違ったりしますよね。また、その土地に対する知識があるか否かでも違ってくるでしょう。旅人の視点で眺めるのか、そこに住む人の立場で見るのかによっても違ってきます。
つまり、視点が変わることで見え方や感じ方が違ってくる——そういうことに気づかせてくれる本。



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